オーストリア、ブルゲンラント州:10年間で電力自立を達成(後編)

2003年からの10年間で、再生可能エネルギーによる電力自給率を3%から100%に上げたオーストリア東端の州「ブルゲンラント州」。この成果は、恵まれた風況を活かして計画的に風車を増やしていくことで実現された。現在では総出力986MW、412基もの風車が同州内に立地する。

短期間での設備増強を可能にした要因が、州主導による質の高い「風力利用空間計画」にあったことは前編(3月7日発行・第47号)で触れた。しかし、成功のポイントは、それだけではない。今号では、同州が成功に至った全要因を解き明かす。

自然保護団体を巻き込む

もう1つの成功のポイントは、この風力のための空間計画の策定や運用に、専門性の高い自然保護団体を重要なステークホルダーとして参加させたことである。州知事ハンス・ニースル氏はオーストリア放送協会のインタビューに対してこう語っている。

「私の視点からは2002~2003年の時点から、(州が風力増産を)非常に体系的に進めてきたことが重要なステップでした。具体的にはWWFやバードライフといったNGO、そしてオーストリア空間計画研究所などを巻き込んだことです。」

空間計画の策定グループには、著名なオーストリア空間計画研究所を中心としながら、州行政の環境保全局、ノイジードル湖生物観測所、そして民間からはオーストリア最大の鳥類保全団体であるバードライフ・オーストリア、WWFオーストリアといったNGOが参加した。その他、州政府や自治体、開発会社、観光業関係者も参加して、コンセンサスを形成していった。

特に自然保護団体は、この地域の鳥類に関する豊富な調査データを有しており、それを空間計画に反映させることに貢献した。また、開発においては鳥類観測を行ったり、開発会社と共に失われる自然の代替ビオトープ整備にも携わっている。自然保護団体が、自ら禁止ゾーン・適正ゾーンの策定やその運用に加わることで、自然保護の視点からも、風力推進の視点からも、納得できる妥協策を見出すことが出来た。そのため自然保護団体からは、風車建設に対する反対運動は起こらなかった。

社会的な受容度の高さ

こういった風力増設のための戦略的な行動の背景には、州政府や州議会の強い意思があった。ブルゲンラント州では、2000年から知事を務めるニースル氏が、積極的に風力を推進してきた。そして2006年には州議会が、すべての政党の賛同を得て、2013年までに電力を再エネ100%で供給することを決議した。そして、この目標は予定通りに実現された。

また、風力設備の開発に携わったのは、主に州の所有するエネルギー・ブルゲンラント社の子会社と、州内の2つの開発会社だった。地域の会社が中心になることで、風力開発から得られる経済的なメリットが、地域に還元される環境が整っていた。そして、これらの開発会社や州からは、計画当初から住民に対してオープンな情報提供が行われてきた。こうして政治の側や住民の側からも、風力増産への反対が出なかった。産業が盛んではない同州の住民の多くが、風力増産を「歴史的なチャンス」と考えていたことも、社会的な受容度の高さに繋がった。

5つの成功の秘訣

空間計画の策定段階から同州での風力開発を同伴してきたノイジードル湖生物観測所のアルフレード・グリュール博士によると、稀少種のバードストライクは、本格的な風力開発が始まって以来3羽に留まっており、種の個体数は非常に安定しているという。鳥類保全の目標もしっかりと達成できているのだ。これは、開発初期からの自然保護団体との協働作業の大きな成果と言えよう。風車新設の段階が終了したブルゲンラント州では、今後の開発は既存設備の建て替え(リパワリング)が中心となるが、州はその際にも鳥類保全の視点から、いっそうの改善を進めていく計画だ。

WWFオーストリアでは、ブルゲンラント州の風力開発を、模範的な「ベスト・プラクティス」として褒め称え、その取組を紹介する冊子を発刊している。その中で、WWFは同州の成功の秘訣を次の5点にまとめている。1・目標に邁進する政治家、2・革新的な空間計画、3・専門性の高い自然保護団体、4・先見性ある行政、5・構築的な協働関係、である。

もちろん、同州で成功要因となった条件の多くは、他の地域にコピーできるものではない。しかし、州政府の主導による広域の風力空間計画を、鳥類保全や自然保護団体の本格的な参加により策定し、運用していくことの重要性については、オーストリアや日本の多くの地域での風力開発にとっても参考になりそうだ。

(滝川薫)

[画像・上:©Energie Burgenland 州の風力利用空間計画によって定めらたれ「適性ゾーン」に、集中的に建てられた風車群。同計画では、まず風力建設の「禁止ゾーン」が定められ、様々な条件をクリアした地域だけが「適性ゾーン」とされる。このゾーニングにより、行政の許認可審査の手間が減少し、風力開発会社にとっては安定した投資環境が整うことになった。(前編参照/3月7日発行・第47号)]

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オーストリア、ブルゲンラント州:10年間で電力自立を達成(前編)(2016/3/14)

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