北九州市・響灘洋上風力発電事業から「風車性能評価高精度化」を考える

今年5月に成立した港湾法の改正により、港湾部での洋上風力発電事業の20年間海域占有と発電事業入札制度が新たに制定された。この改正港湾法に基づく最初の入札・公募手続きが、北九州市の響灘洋上風力発電に関して行われている。系統連系のしやすさ、建設・メンテナンスインフラへのアクセスのしやすさなどの面で、事業者の注目を集めつつある港湾内洋上風力発電。一方で、港湾内だからこその難しさもあるのではないか―との声が専門家からあがった。

[画像・上:響灘洋上風力発電のシミュレーション例。大規模な洋上風車のウェイク(後流)が既存の陸上風車に与える影響を詳細に予見できる(提供:九州大学応用力学研究所准教授・内田孝紀氏)]

◆高精度風況予測モデルを開発、スパコンで演算

問題提起の声をあげたのは、地元である九州大学の応用力学研究所准教授・内田孝紀氏だ。内田氏は、流体工学CFDモデル「RIAM-COMPACT(リアムコンパクト)」を用いて、響灘に大規模な洋上風力発電施設が導入された場合を想定した予備調査を進めつつある。なお本研究は、文部科学省「ポスト『京』で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題に関するアプリケーション開発・研究開発」における重点課題⑥「革新的クリーンエネルギーシステムの実用化(サブ課題C:高効率風力発電システム構築のための大規模数値解析)」の支援を受けて実施された。

リアムコンパクトは内田氏も開発に深く関わった数値風況予測モデルだ。数キロメートル以下の局所・狭域スケールに的を絞って詳細な風況シミュレーションを行うことができる。

◆精密な風況予測が必要な2つの理由

風力発電において局所的風況シミュレーションが重要な理由として、まずは発電の「事業性」がある。事業性保持のためには、ウィンドファームにおいてはどうしても風車の数を増やす傾向になり、理論上の理想的な配置よりも各風車が密接しがちになる。特に風況が良好な地に平坦地が少ない日本国内の陸上風力発電事業では、山岳地域に風車を集中的に配置せざるをえなくなる。すると、風車相互が干渉して、むしろウィンドファーム全体の発電電力量が低下してしまうこともあり得る。

この集中配置の問題は、限られたスペースである港湾内での洋上風力でも顕在化する可能性が大きい。そこで、干渉の主たる要因であるウェイク(風車の後流)モデルにより、事前に詳細な風況を予測。各風車の間隔を「数十センチメートル単位で」(内田氏)検討・決定して発電量を最大化する。

響灘での調査では、これから設置されるであろう洋上の風車が既存の陸上風力発電である北九州市響灘風力発電所へ与える影響、さらにはその逆に与えられる影響も計算されている。

次の理由として、発電の「安全性」がある。陸上風車の事故には、地形性乱流が強く関係している。地形性乱流は、台風や竜巻などによって突発的にも発生し、卓越風向によって日常的にも発生している。これにより風力発電設備に機械的トラブルが引き起こされる。近年、陸上風車の事故に対する世間の目は厳しさを増している。事故防止のために乱流モデルが必要になる。

リアムコンパクトは次世代乱流モデルと言われるLES(Large-Eddy Simulation)を採用。時間的に・空間的に変動する風況場の再現が可能だ。

響灘には、男島、女島、藍島などが点在している。これらの多数の島が乱流を起こす。さらに港湾部だけに港町も隣接する。この市街地も乱流を作り出す。それらが生み出す複雑な影響も詳細にシミュレートされている。

風車の安全性のために、響灘に点在する島々、周辺地の山・市街地が発生させる乱流を精緻に予測(提供:九州大学応用力学研究所准教授・内田孝紀氏)

風車の安全性のために、響灘に点在する島々、周辺地の山・市街地が発生させる乱流を精緻に予測(提供:九州大学応用力学研究所准教授・内田孝紀氏)

◆陸上発電での「反省」活かせ

風力発電事業は、ある程度の試行錯誤が許容されたこれまでの「導入期」と違い、これからはどんどん導入が進み事業参入者も増える「拡大期」に入ってゆく。もう「場所ありき」でやみくもに風車を林立させるやり方は、様々な意味で成り立たなくなりつつある。

だからこそ事前に厳密な数値風況予測を行うことがこれからの風力発電事業には求められるはずだと、内田氏は研究を通してうったえる。

その意味で、響灘洋上風力発電は新たな時代における風力事業全体の試金石とも言える。定量的なデータをお互いが突き合せることによる、採択事業者の綿密な運用と、担当行政機関の慧眼なる「交通整理」に期待したい。

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