≪欧州レポート≫新型肺炎の嵐吹く今こそエネルギー投資を考え直す時
- 2020/4/28
- 国際
- 新エネルギー新聞2020年(令和2年)04月20日付

コロナウイルスの世界的な蔓延にともなう景気後退はあらゆる分野に深刻な影響を及ぼしている。コロナ危機脱出はいつになるのか定かではないが、今後に向けた準備として何が考えられるだろうか。
ベルリンの日常
エネルギーの話の前にベルリン在住フリーランスとして体験したことをお伝えしようと思う。ドイツで初の感染者が出たと報道されたのは1月27日だった。当初はあまり深刻に捉えられていなかったが、その後スペイン風邪以来最悪のパンデミックと言われるようになり、ベルリンも3月22日より外出制限と接触禁止措置がとられた。この制限は現在も延長され続けており、解除がいつになるかは読めない。ドイツ政府は総額90兆円にのぼる支援策を公表し、パニックの回避に腐心している。
90兆円は主に企業の倒産回避を目的としており、10人以下の零細企業には運営コストの支給、中小以上の企業には緊急融資が行われる。また失業手当の拡充も行われ、自営業者も失業手当の対象に加えられた。ドイツは従来から失業手当がある程度整備されているため、この部分に大きな変更はないが、被雇用者については企業の操業縮小が10%を超える場合には給料の60%(扶養家族がいる場合67%)が保証されることとなった(従来は3分の1の操業縮小)。
連邦制を取るドイツは州によって受けられる支援も異なる。私のいるベルリンも1つの州政府となっている。ベルリンはもともと自営業者やフリーランスが多いため、彼らの生活費に充てることも可能な補助金が州の財源で支払われることとなった。これは申請後数日で振り込まれ、例えば経済的ダメージが想定ほど大きくなかった場合などは確定申告で調整することになっている。
それ以外にも州の財源で運営コストに充てる補助金を100人以下の中小企業に拡大している州もある。このあたりは州ごとに経済構造に合わせて調整が行われている。
これらの支援策で特筆すべきは広報である。恐らくベルリン在住のフリーランスの多くがすぐに補助金の情報を得たはずだ。また支援策の内容だけでなく、こうした支援策が必要な背景、ロックダウンの重要性と市民の協力が不可欠なこともメルケル首相自ら広く広報した。
ロックダウンと言っても生活ができなくなるわけではない。ドイツの場合、多くの自治体では買い物や軽い個人スポーツのための外出は許可されている。物資は一部不足しているが、小売店も最大限の努力をしていることはわかるので、私自身は品切れに苦情を言う客も見ていない。
しかし、今後春の日差しが強くなるに連れ、外出抑制の呼びかけや緩やかな規制では機能しなくなってゆくだろう。こうした状況の打開に向け、いかに外出制限の緩和と厳格化のアメとムチを使い分けるかが重要になってゆく。
緊急支援と2つの課題
再エネにとって、コロナ危機がもたらす課題は主に2つである。現在進行中のプロジェクトの遅延や停止と、将来の投資の見通しが不透明になることである。
すでに稼働済みのプロジェクトでは再エネ資源は国産資源のため、止まることはない。これは大きなメリットである。他方、現在建設中の案件は遅延、停止の恐れがある。中国から輸入されるパネルなどは値上がりも予想されており、採算性が悪化すれば深刻な問題になる。20年の再エネの新規稼働の容量は19年より落ち込む可能性も指摘されている。
また、このような事態により、エネルギー政策の改正議論が停止してしまっている。再エネ法や脱石炭法等の重要な法律の議論が停滞すると将来の投資に深刻な影響が出るだろう。もう1つ、政府による緊急経済支援対策の中身が従来産業の保護に偏っては将来技術への投資に不安が出てくる。公的資金がコロナ対策の緊急支援策に充てられ、再エネ支援策の申請停止が起こりつつある。
こうした事態の悪化を防ぐため、専門家はコロナ後に向けた経済政策提案を行っている。共通点は未来への投資である。今回の危機を受け、消費者や産業界の意識は大きく変わってゆく。そうした中で、一時的な危機からの脱出のためだからと従来構造の維持に資するような支援は避けるべきである。雇用はできる限り維持しつつも新しい産業への雇用転換、構造転換を進めなければならない。
ドイツでは和牛券ならぬ自動車券を求める声が業界から上がっているが、例えば電気自動車のみを対象とするなどの手当が絶対に必要だ。
さらには化石燃料業界も支援を求めるだろうがこれには厳しく対応しなければならない。なぜならこうした業界はコロナ危機がなくてもいずれ縮小を余儀なくされる産業だからだ。シェルが蓄電池メーカーのゾネンを買収したのも石油では将来儲からないという判断があったと見る専門家は多い。こうしたゾンビ一歩手前の業界や企業の延命措置は厳しく批判しなければならない。
緊急支援は重要かつ不可欠である。しかし、大規模な財政出動は政府の政治観を示すものであるということを政権与党はきちんと把握しなければならない。著名な機関によるレジリエンスの高い社会への投資案はすでに出揃っている。例えば欧州グリーンディールなども見直しなどはせずに実現に向けて推進するであろうし、ドイツはその中で中心的な役割が求められている。
2008年に起こった金融危機後の2009年以降、ドイツもアメリカも一人あたりGDPを伸ばしながらCO2排出は減らしてきた。アメリカは絶対値では今も日本よりも多いがドイツはすでに日本を下回っている。この間日本は一人あたりCO2排出量を増やしてきたためだ。
日本こそコロナ後のためのグリーンディールが必要である。
(西村健佑)
【参考記事】
≪欧州レポート≫一進一退を繰り返すドイツの再エネ政策 ~それでも最終的に前進するために必要なこととは
≪欧州レポート≫エネルギー展示会「E-World」(ドイツ・エッセン)で見えてきたエネルギービジネスの未来 ~「デジタル化」本格展開の予兆