石炭火力輸出支援4要件見直し 「条件変更」で決着へ 環境省と経産省の専門家会合でそれぞれ中間取りまとめ

「脱炭素・エネ転換進展」認識共通も…

石炭火力発電の輸出に関する、環境省経済産業省の議論が佳境を迎えている。5月、「石炭火力発電輸出への公的資金に関する有識者ファクト検討会」(座長=高村ゆかり・東京大学教授)の第4回会合が開催され、取りまとめにあたる「ファクト集案」が示された。一方で経産省も有識者会合「インフラ海外展開懇談会」(座長=豊田正和・一般財団法人日本エネルギー経済研究所理事長)を立ち上げ、5月に取りまとめ案を示した。双方ともエネルギー転換・脱炭素化の「長期的視点」の重要性を強調する結論となったが、日本政府の石炭火力発電輸出への公的資金活用に対して国際社会からは足元で厳しい視線が注がれている。その批判的な声に応える最適解を導けるか、今後の政策動向は不透明だ。

[画像・上:石炭火力発電の輸出に関する公的支援の枠組み。OECD輸出信用アレンジメントを踏まえつつ、JICA(国際協力機構)、JBIC(国際協力銀行)、NEXI(日本貿易保険)が実施する(資料:環境省)]

発端は1月、ベトナムで計画が進められているブンアン2石炭火力発電プロジェクトに関して、小泉進次郎環境大臣が「石炭火力輸出支援の4要件に違反している」と投げかけた疑問だった。同プロジェクトには日本の官民が投融資している。

ここで言及されている4要件とは、「石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限る」・「日本の高効率石炭火力発電への要請」・「相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的」・「原則USC(超々臨界圧)以上(の低CO2排出レベル)」を指す。小泉大臣の発言後、環境省・経済産業省・外務省などの関係省庁が4要件の見直しに向けて協議した結果、「パリ協定の目標達成に向け」、「次期インフラシステム輸出戦略骨子に向け、関係省庁で議論をし結論を得る」と、見直しの方向性について6月末までを目途に結論を出すことで合意した。

この流れの中でファクト検討会は4月1日(第1回)に立ち上げられた。委員には学識経験者・各種団体関係者・金融関係者が任命された。事務局は環境省が務めたほか、オブザーバーとして財務省・外務省・経産省が参加していた。

会合では各種団体による意見陳述や参考資料提出が行われ、それらも踏まえて検討会での議論は「ファクト集」に集成する。既に4月28日開催の第3回会合でファクト集の案が示された。検討会に出席した小泉大臣は「ファクトの積み重ねは4要件見直しの議論のための土台作り」と明言し、見直しに意欲を見せた。

経産省でも有識者会合「インフラ海外展開懇談会」を4月に立ち上げた。こちらも委員として学識経験者・各種団体関係者が任命され、5月に取りまとめ案を示している。環境政策・エネルギー政策の視点の違いから、石炭火発の輸出に関してそれぞれの会合において「公的資金がないと極めて厳しい競争環境にある」(検討会)、「アジア太平洋地域や石炭を産出するASEANなどで底堅い需要がある」(懇談会)と、対照的な評価が行われる部分もある。

しかしその一方で、再エネの大量導入を契機とするエネルギー転換の進展や脱炭素社会実現の取り組みの進展に関しては共通認識となっている。そしてそこから、石炭火発の輸出に際しては「脱炭素社会への移行の方針を示す長期戦略の策定などの政策的な支援」を併せて実施するなどの新たな条件を付帯させることでも結論は共通している。従って、石炭火発の輸出禁止や公的支援中止には踏み込むことはなく、「条件変更」することが政策的な擦り合わせのポイントとなると思われる。

ただ、議論の中では「『最先端な高効率石炭火発の輸出』を前提にするのであれば、USC(超々臨界圧火力発電)にとどまらず、(より技術的要件の高い)IGCC(石炭ガス化複合発電)にならざるを得ない。しかしIGCCのコスト水準では『発電端で低コスト』というニーズの根拠、石炭火発の存立条件を否定することになりかねない」など、石炭火発輸出のコストの矛盾に関して重要な指摘もされている。

「脱炭素・エネルギー転換・パリ協定」の時代である現在、環境政策とエネルギー政策はかつてないほど緊密な連携が求められている。今年3月、パリ協定に定められた「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度Cより十分低く保つとともに、1.5度Cに抑える努力を追求する」目標達成に向けたNDC(日本が決定する貢献、国別目標とも)の策定と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局への提出に際しては、2030年度に温室効果ガス(GHG)排出26%削減(2013年度比)との従来の目標が据え置かれた。現在の各国のGHG削減目標では2度C目標の達成が難しいと指摘されており、また国連も目標値の上積みを求めている中での目標値据え置きだったが、今後はエネルギー基本計画およびエネルギーミックスの改定と整合的に更なる野心的な削減努力を反映した「意欲的な」数値を目指すことも併記された。

今般の石炭火力輸出支援4要件見直しの議論では、今後の公的支援を「ビジネスへの支援という現状から、相手国の脱炭素化への現実的かつ着実な移行に整合的な『脱炭素移行ソリューション』提供型への支援へと昇華させていく」(検討会)方向が強調された。しかしこれによって、日本の「環境と経済の好循環」の方針を世界と共有することで、「CO2排出抑制に後ろ向き」との印象を抱かるようになってしまった日本のエネルギー産業の今そこにあるレピュテーションリスクを排除できるか否かは不明だ。局面だけの変更ではなく、日本の政策が一体的・抜本的に脱炭素・エネルギー転換に取り組み「隗より始める」ことで説得力を持たせることができるのか。今年後半から議論が開始されると思われる新たなエネ基の動向と併せて注目したい。

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