定置用大型蓄電池の安全性に関する国際規格を世界で初めて発行【IEC/NITE】次世代の系統運用・再エネ導入拡大に期待

4月、国際電気標準会議(IEC)で新たにIEC62933-5-2が発行された。BESS(Battery Energy Storage System)と呼ばれる定置用大型蓄電池システムの安全性に関する国際規格で、日本の(独法)製品評価技術基盤機構(NITE)が規格原案策定を行った。

[画像・上:NITEの大型蓄電池システム試験・評価施設「NLAB」に導入されている、被試験体の充放電用蓄電池システム(提供:NITE)]

規格では電気化学的技術を用いる蓄電池(化学蓄電池。リチウムイオン二次電池=LiBなど)からなる、電力システムに接続される大型蓄電池システムのシステムとしての安全要求事項について規定しており、全ライフサイクル(設計から運用期間終了時の管理まで)に適用可能だ。

NITEによる本規格の開発検討においては、人命にかかわる火災・爆発・有毒ガス滞留への対策としてBESS製造者の視点での故障モード影響解析(FMEA:Failure Mode and Effect Analysis)、およびBESS利用者の視点での故障の木解析(FTA:Fault Tree Analysis)を組み合わせて、バッテリーの熱暴走による火災や発生した可燃性ガスの短絡スパークによる爆発など事故シナリオを整理。システム全体として必要な安全性対策および確認方法を検討した。

本規格の策定の背景には当然、電力システムの観点から見たBESSへ寄せられる期待の大きさがある。電力需給の状況に合わせて調整を行う「しわ取り」と呼ばれる系統運用は、従来だと発電施設、特に「火力発電を焚き増しする・出力を絞る」オペレーションが中心だった。そこで、しわ取りにおいて火力発電が担っている役割をエネルギーストレージ、特に化学蓄電池で代替できれば、排出CO2が削減できることに加えて㍉秒単位の柔軟な瞬時応答も可能になる。

おりしも太陽光発電や風力発電など出力変動型再エネ(VRE)の大量導入が進んでいる。VREの側に蓄電池を設置し、変動成分を蓄電・放電すれば系統安定化につながり、ひいては再エネ・VREのさらなる導入にもつながる。

系統運用にも使用されるBESSは、MWクラスの大きさを持つ。経済産業省の「大型蓄電システム実証事業」(執行団体:一般財団法人新エネルギー財団)で導入された、東北電力の西仙台変電所(仙台市)および南相馬変電所(福島県南相馬市)のBESSは、それぞれ出力4万kW・容量4万kWhおよび出力2万kW・容量2万kWhという規模だ。

本規格策定にあたって想定されたBESSの事故シナリオの例と IEC62933-5-2に基づく安全対策のイメージ(提供:NITE)

機械の規模が大きいだけに、重大な事故が起きた場合のネガティブな影響も大きくなりかねない。有機溶媒であるLiBの電解液のように可燃性のある材料を用いているBESSもある。実際、世界各地で火災事故の報告が上がっており、BESSの拡大と共にその安全性の評価にかかる環境整備を望む声が強まっていた。安全規格はこれまで整備されておらず、BESSの安全性に関する国際規格が発行されるのは今回が世界初と言われている。

NITEは、経産省「グローバル認証基盤整備事業」の一環として大阪事務所(大阪市住之江区)内に設立した、世界最大級の大型蓄電池システムの試験・評価施設「NLAB」を持つ。NLABでは充放電試験やBMS(バッテリー・マネジメント・システム)動作試験などBESSの電気的な試験に加えて、破壊試験や落下試験などの物理的試験も実施できる。

このNLABにて、安全要求項目の技術的根拠とするべく電池ユニットの類焼実験を実施して、国際規格原案をまとめた。原案策定にあたっては、経産省の委託事業である「大型蓄電池システムの安全性に関する国際標準化・普及基盤構築」にも参画している。

NITEは現在、国内の認証機関がNLABを活用して本規格に基づく試験成績表の発行をできるように、当該規格を国際対応規格とする日本産業規格(JIS)原案作成に取り組んでいる。また、NLABを活用した評価基盤の構築も国内試験・認証機関と共に進めており、国内の蓄電池産業の更なる成長への貢献を目指している。

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