《【特集】太陽光発電所のケーブル盗難対策》〈特別寄稿〉太陽光発電所の盗難リスクと対策
- 2024/8/27
- 特集
- 新エネルギー新聞2024年(令和6年)08月26日付
〈特別寄稿〉
太陽光発電所の盗難リスクと対策 ~その実態と実害
(一社)新エネルギーO&M協議会(JOMARE)
専務理事 大門敏男氏
太陽光発電所の盗難被害が収まる気配がありません。新聞情報によると、今年1~6月の被害件数は全国で前年比1.5倍に拡大している由です。発生件数最多としてしばしば触れられる茨城県ですが、太陽光発電所の総数が3万8,852カ所と全国で2番目の多さであることは合わせて考える必要があります(2023年12月末)。盗難多発県の昨年の発生率を計算(一部概数を含む)すると、A県5.3%、茨城県4.3%、B県4%、C県3.5%、D県1.1%であり、必ずしも茨城県だけに突出して発生しているというわけではない実態が浮かび上がります(茨城県以外は発生件数を公表していないので伏字にしています)。
当法人は、盗難多発県で被害にあった30発電所の周辺環境を今年3月に調査しました。この結果から被害発電所の規模別内訳を集計すると表1のとおりです。期待収益の大きな高圧発電所および分割エリアが狙われている実態が分かります。この比率により、茨城県を例に高圧以上の発電所の事故発生率を推計すると、10件に3件程度が被害にあっている勘定になります。低圧発電所の5倍以上です。
当法人の補償事業から1件あたりの被害額を計算すると、2023年では低圧発電所が設備価額の4.7%、高圧発電所が1.6%です。2022年12月以前は、低圧2.7%、高圧1.1%でしたので、被害額も増加しています。
今年の3月から4月にかけて、某県で5週連続・毎週2件ずつ発生した補償事故では、損害額が週を追って増加しました。2回目から8スケアのケーブルも、4回目・5回目には3.5スケアのケーブルもやられました。1回1,000m超で、それだけ盗っても10万円にもならないと思いますが、犯人の慣れと発電所が長居できる環境にあったことが要因と思料されます。
CPTED(Crime Prevention through Environmental Design=環境設計を通した犯罪予防)の視点に沿って、危険事情と対策を表2に整理します。
盗難の防止対策に「絶対大丈夫」はありません。自動車盗などと同様にいたちごっこになる恐れもあるかも知れません。次の写真①は1号柱の保護が破壊された事例で、被害を受けて設備保護をより強固にしたのが上掲の写真②になります。
[画像・上:写真②=1号柱の保護が破壊された被害を受けて、設備保護をより強固にした事例]
盗難に限らず、防災と損害保険を一体とし、本件盗難では更に犯罪抑止の社会的対策も合わせて検討されるべきものと考えます。しかし、損害保険の調達が大変厳しいものになっています。
国の安全論議は電気安全と電力供給の継続が中心ですが、論議の俎上にないからといって事故リスクがない訳ではありません。むしろ、高額でかつ頑丈とはいえない太陽光発電設備を野ざらしにしているのですから、破格の高リスクです。これまで、リスクを一手に引き受けてきた損害保険の引受厳格化は、事故の多発を原因としています。しかし他方で、一部に、事故が起きて高額の保険金の支払いを受けても「それはそれ」、競争原理とばかりにショッピングに走るなど、保険会社と発電事業者の相互信頼の棄損も、問題の根底にあるのではないでしょうか。
当法人では、「リスク認証・補償制度『ELITE(エリート)』」を開発し、昨年9月から実施しています。この制度では、盗難および自然災害による財物損害リスクを定量的に評価し、それに基づきメンテナンス契約にそれらの事故への補償を付帯して提供しています。