【短期集中連載】ポストFITの「切り札」はなにか ②再エネからの電気を貯める

①より続く

FITを卒業したドイツでは、数々の新しいエネルギービジネスが生まれている。欧州で進展する新しい電力システム、メカニズムなどの最新情報についてのレポート『進化するエネルギービジネス』(新農林社刊)を上梓した共同執筆者のメンバーに、日本においても今後広まることが予想されるこれらのビジネスについて、全3回の集中連載で解説していただく。

連載2回目は村上敦氏と本紙で「欧州レポート」を連載する西村健佑氏が、再エネ電力を電力システムに統合する際には欠かせない柔軟性(フレキシビリティ)について紹介する。

[画像・上:一次予備力市場向け蓄電池の出力と蓄電池の種類(出典:Fleer, et. Al. [Modellbasierte okonomische Analyse eines stationaren Batteriespeichers], 2016年から著者和訳)]

◆単独では採算が取れない「ネガワット取引」◆

ドイツの国家レベルの長期エネルギー戦略であるエネルギーヴェンデでは、将来的な電力需要のほとんどを再生可能エネルギー、とりわけ気象条件によって発電出力が変動するVRE(変動性再エネ)によって担うことが決められている。そして前回の記事では、そのVRE電源のほとんどはVPPによってその他の柔軟性と合わせて総合的に制御されるようになってきている状況を解説した。

このVPPのポートフォリオの中でも、柔軟性に優れており、かつ経済性が高いのがDSM(デマンドサイドマネジメント)である。通常、日本ではDSMと言えば電力消費のピークの時間帯などに一時的に需要家が電力消費を下げる取り組み(ネガワットもしくはデマンドレスポンス)のみを指すが、ドイツのこれまでの経験ではネガワットだけを抜き出して取引する市場はほぼ成立しないことが分かっている。

理由は、VPPの解説でも見てきたように、ドイツのアグリゲーターの多くはそのポートフォリオの中で「柔軟性」全体を総合的に取り扱っており、DSMの下方向(下げ代確保)だけを取り扱う企業は数が少なく、それだけを抜き出すことが事業者にとって経済的なインセンティブにならないからだ。ただし、ドイツでは上下両方向(上げ代/下げ代確保のオペレーション)のDSM自体は、VPPのポートフォリオの中身としても、予備力としても、年々活発化してきている。

◆パワー・トゥー・ヒート(power to Heat)◆

最も事業として普及しているDSMは、電力市場の価格が低下しているときに電力消費を増大させ、電力を熱に転換しておき、価格が高騰した時に電力消費を抑制し、事前に作っておいた熱でその時間帯を賄うというパワー・トゥー・ヒートであろう。

例えばバランスパワー社などがサービスを提供しているような冷蔵・冷凍設備におけるDSMである。多くの冷凍設備は中の冷凍食材にとって数℃の温度変化は大きな問題とはならない。そこで、電力が余っている時は必要な温度よりも数℃下げ、電力が不足する時は電源を切ることによって柔軟性を生み出している。

あるいはティコ社などの事例で、数千を超える暖房・給湯設備をVPPとして繋ぎ、個々の設備では気が付かないほど微妙な温度調整や稼働制御を行いながら、それらを取りまとめて全体としては大きな柔軟性にして、電力市場や予備力などの分野で利益を得るようなビジネスも始まっている。

より簡便なのは、仮想で個々の設備を取りまとめるのではなく、既に実物の熱設備が取りまとめられている地域熱供給のヒートセンターにおけるパワー・トゥー・ヒートであろう。2015~16年の2年間で、ドイツではすでに25か所の大型地域熱供給のヒートセンターがパワー・トゥー・ヒート稼働できるようになったが、平均して150ユーロ/kW程度の投資でこれを実現している。

これまでは熱の需要に対して熱供給を効率的に実施していただけだったヒートセンターは、電力市場に向け柔軟性を発揮しながら、同時に途切れることなく熱需要も賄うような設備へと改修(一部は新設)されている。

◆数ある柔軟性のうちの一つの蓄電池◆

こうした柔軟性の対策の一つが蓄電池である。一方では小型の定置式の蓄電池は、太陽光発電からの電力の自家消費割合を高めるために普及が始まっている。ゾンネン社(Sonnen GmbH)などがVPPをマーケティングとして有効に活用したことも、普及に弾みをつけた。

ちなみにドイツでは太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムでも、グリッドパリティに到達し始めたため、今後普及のスピードは上昇してゆくだろう。

それとは別に、中型、大型の定置式の蓄電池の普及も本格的に始まっている。ドイツ貿易振興機関(GTAI)によれば特に素早い立ち上がりが要求される一次予備力(周波数調整力)として必要な容量は、ドイツ・フランスと周辺国からなる統合市場では既に1,400MW程度存在する。

また、ドイツでは一次予備力をはじめとした予備力市場に参入するためには、高圧送電系統運営者が課す厳しい条件を満たす必要があるが、多くの蓄電池は制御技術や信頼性を向上させ、これをクリアするようになっている。

大型蓄電池のシステム価格も現在は1kWhあたり700~800ユーロと急落しており、今後も価格低下が続き、さらなる普及が予測されている。アーヘン工科大学などの調査では、グラフのように2016~17年にかけて一次予備力向け蓄電池の設置が大幅に増え、2017年末にはドイツの一次予備力容量の2割以上が蓄電池になったと言われている。

(村上敦/西村健佑)

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