【年頭所感・年頭論説2023年】岸田 義典(株式会社新農林社 代表取締役社長):〝脱炭素〟奇貨として「柔軟性」の価値観を基軸とした新時代の社会・経済・エネルギーシステム構築を
- 2023/1/10
- 特集
- 新エネルギー新聞2023年(令和5年)01月09日付
特定の分野だけの対応にとどまることができない「脱炭素」と「エネルギー変革」
国内の農業や農山漁村政策に目を移すと、農業の担い手不足や少子高齢化への対応として、農地の集約化が一部で議論されています。先進国では実際、集約した農地に大型の農業機械を導入することで生産性を向上させている例があります。しかし欧米などと比較して圃場が桁違いに小区画多数・分散型で、様々な地形に立地する日本国内において、これから集約化することのメリットとコストはいかほどのものか、私には想像がつきません。それよりも、昨今進展が著しいデジタル系技術を応用し、通信技術やAIを用いることで複数の小型農業無人機械、つまりロボットを既存の各農場で稼働させる、スマート農業としての新しい方策のほうが、ソリューションとしてより「現実的」と言えます。「分散型」の農地の在り方を存続させつつ、「集約的」な生産管理の実装を可能にする、「柔軟な」方策です。
産業の生産性を高めることとは、しばしば産業を「集約する」ことと同義に捉えられます。これは今後もある程度までは真実であり続けるはずです。しかしこの場合の「集約」には、ある一点に収斂させる方向性が含まれていることに注意が必要です。それは一種の「大量生産大量消費」のイメージであり、価値観(とマーケット)が多様化した現代とこれ以降において、「大量生産大量消費」の観点だけで時代を切り抜けられるとは到底思えません。これからの産業に必要なのは、集約性の意味と価値そのものの組み換えとアップデートです。ストック思考から、「ストックとフローの両立」思考への進化とも言えるかもしれません。そして、従来の集約的な在り方を乗り越え、新たな時代の「柔軟性」へ向かう取り組みは、既にはじまっているのです。
脱炭素の動きが各方面で本格化しているのは、新たな時代の在り方への模索として象徴的です。そして脱炭素は一義的にエネルギーの問題でもあります。脱炭素がどの分野にも関わることと同義のこととして、どの分野でも新たなエネルギーの姿に横断的に、柔軟に取り組む必要があります。

農林水産省は、農業のこれからのSDGsや環境問題対応を盛り込んだ「みどりの食料システム戦略」を推進しています。みどり戦略では政府の掲げる2050年カーボンニュートラルを前提に、「化学肥料使用量30㌫削減・有機農業の耕作面積割合を25%(100万ha)へ拡大」などの方針が立てられています。その一方で、「農業機械の電化・水素化」の文言がありながら、電化・水素化の数値目標は示されておらず、また脱炭素の対応としての再エネ導入目標も示されていません。
これは私にとって奇妙に映ります。今後も止め難く進むであろうスマート農業において、スマート系技術と親和性の高い電気の利用も拡大することは目に見えています。そして電気の供給源には、「自然エネルギー」として農業・農地と親和性の高く、もちろん非化石電源である再エネが「需要地近接型」電源として重要になります。スマート農業-農業電化-再エネ導入-脱炭素、そして農業従事者が得ることのできる農業効率化のメリットまでが、一直線につながっているはずなのです。
脱炭素を始めとした新しい価値観の具現化には、従来の枠組みを超え、横断する柔軟な姿勢が不可欠なのです。再エネ自家消費による営農は、千葉大学発のアカデミーベンチャーである千葉エコ・エネルギー(千葉市)がEV・定置式蓄電池などを組み合わせてソーラーシェアリングで実証実験を展開しています。
農山漁村への再エネ導入目標については、農山漁村再エネ法内の目標の見直しという形で農水省が2023年度に示すことになっています。今年中にも始まるであろう見直しの議論の行方に注目したいところです。
このところ農業でもエネルギーでも、デジタル系制御技術を基盤としたベンチャーの起業の話題をしばしば耳にするようになりました。その多くが若い世代により営まれていることに、私はこの国の経済・社会における希望の一端を見る思いがしております。新たな時代を切り拓く同じタスクを、それぞれの分野でシェアする同志として、これからも共に汗をかこうではありませんか。


