【短期集中連載】ポストFITの「切り札」はなにか ①VPP:再エネが需給調整に参加する
- 2018/3/19
- 国際
- 新エネルギー新聞2018年(平成30年)03月05日付

FITを卒業したドイツでは、数々の新しいエネルギービジネスが生まれている。欧州で進展する新しい電力システム、メカニズムなどの最新情報についてのレポート『進化するエネルギービジネス』(新農林社刊)を上梓した共同執筆者のメンバーに、日本においても今後広まることが予想されるこれらのビジネスについて全3回の集中連載で解説していただく。連載初回は村上敦・梶村良太郎両氏が、VPPを中心に再エネの需給調整を行うアグリゲーターについて紹介する。
[画像・上:アグリゲーターによる再エネ直接販売の仕組み(作成:梶村良太郎)]
◆FITからFIPへ◆
2012年から段階的にFITを卒業してきたドイツでは、新設の再エネ設備においてはほぼすべて、既存の設備でも全体の6割を超える設備が、自身で発電した電力を「買い取ってもらう」という特別なFITの恩恵措置から離脱している。その他の火力などの発電所と同様に、再エネ発電設備は、顧客を自身で見つけて相対取引で自身の電力を販売するのか、それとも電力市場に直接販売するのかの選択をするようになった。その際、もし再エネ設備が電力市場への販売を選択するなら、販売量あたり一定額のプレミアムを徴収した賦課金から受け取れるような仕組みとなっている(FIP:フィードインプレミアム制度)。
◆FIPの高いハードル◆
ただしFIPの対象となるためには、以下の4つの条件をクリアする必要がある。①再エネ設備に遠隔制御機能を搭載し、②再エネ設備からの発電量は、電力市場(EPEX SPOT)で全量販売しなければならない。その結果、再エネ設備を運営する事業者には、③EPEX SPOTよりパワートレーダーとしての認可を受けたスタッフが、取引の責任者として在籍しており、④その事業者がバランシンググループの代表であることが求められる。
つまり、単なる再エネ発電事業者にとっては、自らの責任において電力市場で売電するには、実現がほぼ不可能な(あるいは採算が取れるはずもない)高すぎるハードルがそびえたっていることとなる。
したがってドイツでは2012年以降、上述した業務を代行するアグリゲーター(直接販売事業者)が多数出現することになった。再エネ設備を運営する事業者はアグリゲーターと契約すると、自らの発電設備をデータ回線越しにアグリゲーターの管制システムに接続し、設備の遠隔制御権を与える。そして発電設備をアグリゲーターのバランシンググループに登録する。これによって再エネ発電事業者は、FITでの手続きとほぼ変わらない条件のもとでFIPに参入できるようになる。このようなアグリゲーターの登場によって、ドイツの再エネの発展を支えてきた中小規模事業者(個人、市民エネルギー協同組合、都市公社など)は、FIT卒業後も市場に参入し続けることができている。
◆アグリゲーターの技術的基盤:VPP◆
さて、それでは逆にこの直接販売事業は、アグリゲーターにとってどのような仕組みになっているのか。再エネ電力を電力市場で販売すべく、顧客と契約を交わしたアグリゲーターは、その発電設備を自身の管制システムに接続し、自らが代表を務める(あるいは他者に委託している)バランシンググループに登録するといった手続きは上述のとおりだ。つまり、アグリゲーターは全ての顧客電源の発電量を予測し、グループの需給バランスを守るべく、その電力を電力卸市場で販売することになる。
その実務を処理するための技術的基盤こそが、仮想発電所(Virtual Power Plant:VPP)である。アグリゲーターは、顧客の発電設備を全て自社のVPP(=需給をバランスさせる責務と能力がある仮想電源)に統合して、需要(=電力市場での売却量)と供給(=顧客すべての発電量)のバランスを調整する。現在のドイツではこうした分散型の再エネを電源の1つとして運営しているアグリゲーター(VPP運営者)の数は100社規模で存在する。
◆再エネが需給調整に参加:重要なポートフォリオ◆
話はここで終わらない。アグリゲーターの多くは、こうしたFIP電源(その多くは太陽光発電、風力発電などのVRE:変動型再エネ)のみを取り扱っているわけではない。電力のスポット市場における取引では、供給が需要を上回る余裕があるときには価格は低下し、需給が厳しくなるときには当然価格は高騰する。せっかく分散型で取り集めたキロワットアワーをどのタイミングで、どれだけ販売する(あるいは購入する)のかによって、VPPの事業成績は大きく変化するわけだ。こうした市場の価格シグナルというインセンティブによって、アグリゲーターの多くは、自身のVPPのポートフォリオの中身の最適化を図り、そのポートフォリオの中身それぞれを運営するのに最適なVPP管制のアルゴリズムを練り上げ、それは常に進化し、更新し、自身の管制システムを改良してゆく。
具体的には、VPPは単なるFIP電源の集合体というだけではなく、そのFIP電源の種類と規模(風力発電と太陽光発電は相互補完性がある)、立地(天候は各地で異なる)にも配慮するようになり、そのポートフォリオの中身に、その他の柔軟性のある発電源や柔軟性を持つ電力の需要家、あるいは採算が取れるなら各種の蓄電装置なども織り込んでゆき、VPPはそれぞれの参加者の運営を最適化してゆくことになる。この事業の目的、インセンティブは、VPP事業者と参加者がより多くの利益を得ることであるが、その結果はコインの表裏のような関係で電力の需給調整を果たすことになる。さらに踏み込んでいくつかのVPPでは、スポット市場でのキロワットアワーの売買だけではなく、場合によっては予備力(調整電源)としてキロワットも販売するようにまでに進化している。
(村上敦/梶村良太郎)
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