【短期集中連載】ポストFITの「切り札」はなにか ③セクターカップリングが描き出す未来

②より続く

FITを卒業したドイツでは、数々の新しいエネルギービジネスが生まれている。欧州で進展する新しい電力システム、メカニズムなどの最新情報についてのレポート『進化するエネルギービジネス』(新農林社刊)を上梓した共同執筆者のメンバーに、日本においても今後広まることが予想されるこれらのビジネスについて、全3回の集中連載で解説していただく。最終回となる連載3回目は村上敦氏が、再エネ電力の中でも急激にその割合の上昇が見られるVRE(変動性再エネ)を従来型の電力システムの中に統合するだけではなく、より大きな柔軟性(フレキシビリティ)を発揮するために熱・交通の分野に統合してゆくセクターカップリングについて紹介する。

◆増え続ける再エネ電力◆

ドイツでは1991年から再エネ電力の買取を義務付ける「電力供給法」が施行され、2000年からFITと呼ばれる「再エネ推進法」に拡充され、再エネ電力の大量導入と価格低下を成し遂げてきた。続く2012年からは段階的にFITから離脱してゆき、連載1回目でも紹介したFIP(フィードインプレミアム)制度へと移行した。これらの再エネ推進策によって、2017年の電力消費量における再エネ割合は36%となり全体の3分の1を超えている。このうちVRE(変動性再エネ)と呼ばれる太陽光発電の割合は7%、風力発電の割合は18%となり、両者を合わせて全体の4分の1にまで成長している。

気象条件や分散度合にもよるが、ドイツではVREが20%を超えるあたりから、出力変動運転でも一定度の経済性がある火力発電や揚水水力発電などの既存の電力システムが備えていた柔軟性(過去にはバックアップ電源と呼ばれた)だけでは、VREの変動を吸収しきれなくなるという危惧がささやかれるようになった。また最近発足した第四次メルケル政権は2030年の電力部門における再エネ割合65%を目標に設定しており、その場合VREの割合は50%前後になる。今後、VREを現状の25%から50%へと拡充してゆくためには、より大きな柔軟性の整備が不可欠である。

◆停滞している熱と交通部門◆

このようにVREが右肩上がりの快進撃を続けることで、電力システム運営そのものも変化し続けている電力部門とは異なり、熱部門における再エネ割合は12%台、交通部門においても再エネ燃料割合は5%台で停滞している。また、日本と異なりドイツでは、人口、経済規模、交通需要など全てのエネルギー消費に連動する指標は今後も引き続き増大してゆく見込みであるため、従来型の取り組みだけでは、熱と交通部門における再エネ割合の大幅な拡大は望めない。そこで近年、「セクターカップリング」という考え方が提唱され、それに関連する各種のビジネスも立ち上がり始めている(図参照)。

[画像・上:=セクターカップリングの概念図(ドイツ再エネのシンクタンク「BEE」作成に筆者が加筆した)]

◆ヒートポンプとEVの推進◆

直近で進められているのが、ヒートポンプとEV(電気自動車)の推進である。両者ともVREからの電気を利用するという前提であるならば、①VREの変動を吸収するための柔軟性を供給でき、②この技術によってガスボイラー、および内燃機関よりも飛躍的に熱効率を上げることで大々的な省エネにつながる、という2つの利点がある。ドイツでの建物における暖房・給湯の主流は天然ガスによる潜熱回収式ボイラであるが、この熱効率は85%程度であるのに対し、電気ヒートポンプのAPF(通年エネルギー消費効率)は運転条件次第だが300~500%に達する。ガソリンエンジンなど内燃機関の熱効率は20~30%程度であるが、充電時や蓄電中のロスを含めてもEVの熱効率は70~80%程度になる。この両者に火力発電(熱効率35%程度)などで電力を供給するのであれば省エネにはつながらないが、燃料を必要としないVREからの電力であれば大幅な省エネを実現できる。

注意したいのは、日本で進められているオール電化とは異なり、ヒートポンプやEVの充電は、電力市場の価格動向や系統運営者の指令によって柔軟性を供給しながら、VREによる電力で稼働しなければならないことだ。

◆セクターカップリングで進める温暖化対策◆

ドイツは2050年までに温室効果ガスの排出量を80~95%削減することをエネルギー戦略の第一義としているが、電力部門だけが再エネ割合を高めてもそれは実現しない。また、再エネ割合を飛躍的に高めるポテンシャルが存在するのは、電力システムの柔軟性を必要とするVREだけである。したがって、柔軟性を提供でき、同時に省エネをも実現するような交通と熱部門の取り組みを今後、拡大してゆく必要がある。上述したヒートポンプ、EVという取り組みはその一部であり、図中にあるような対策を積み上げる必要がある。この連載でも記してきたようにパワー・トゥー・ヒートやDSM、蓄電池などの対策も含め、それらをVPPという技術的な基盤で制御するわけだ。

そのためにセクターカップリングを推進することが新政権の連立政権契約書に初めて記された。新政権の目標値であるVRE割合50%という数字が実現する頃には、VREは熱や交通部門から追加で柔軟性を受けるだけではなく、VRE電力を水素ガス化、メタンガス化、液体燃料化することで中期貯蔵するような対策も経済性を持って活用するようになっているはずだ。パワー・トゥー・ガス、パワー・トゥー・リキッドなどと呼ばれるこれらの対策は、現在R&Dが活発に進められている。

(村上敦)

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